実行委員会 稲垣雄史実行委員長の総括

本草薬膳学院創立10周年記念大会並びに日中薬膳シンポジウム

2012年6月24日(日)

記念大会主催:本草薬膳学院創立10周年記念行事実行委員会

日中薬膳シンポジウム主催:本草薬膳学院・日本国際薬膳師会・中国薬膳研究会・北京中医薬大学・河南中医学院


3.ボランティアとは

ここでボランティアについて考えてみたい。
「はじめに」の章で触れたが、お誘いがあった本草薬膳学院創立10周年記念行事実行委員会への参加条件は、「尚、実行委委員会はボランティア活動になりますので、ご賛同頂ける方はお願い申し上げます」、と最後に注記されていた。
ここに参加された皆さん、アドバイザー、委員長を含め実行委員35名全員、手弁当で旅費も部材の購入もほとんど自分払いであった。中には大阪から駆けつけておられる方もおられた。
ボランティアについてドラッカー氏とレオ・パーテル氏の興味ある対談がある[P.F.ドラッカー(2007)]:

レオ・パーテル氏「昔のボランティアは言われたことをするだけの助手でした。いまのボランティアはパートナーです。ボランティアと呼んではいけないのかも知れません。無給のスタッフです。彼女たちの多くがリーダー役を果たしています。」
ドラッカー「ボランティアの人たちが、ミッションを共有して働くようになった。教会が訓練をする。仕事の質はどうやって確保していますか。」
パーテル「ミッションを共有することによって確保しています。皆さん献身的です。」
・・・
パーテル「動機づけさえあれば、能力の獲得は自分にとってのニーズになります。むしろ私としては、経験や訓練の足りなさを気にしすぎていることが問題だと思っています。そのためもあってみなさん経験や訓練にはどん欲です。」
ドラッカー「能力の欠如よりも自信の欠如が問題だというわけですね。そこであなたが元気づけ、ほめ、助け、支えている。」
パーテル「しかもわれわれは基準を高く設定してます。人というものは期待をかけられると応えるものです。私は誰にたいしても大きな期待をかけます。多くの場合、人はそれをうれしく思います。期待されると名誉に思います。さらに努力します。有能になるための機会を求めます。

われわれはボランティアとしてこの企画に賛同し、組織に参加した。
一般に非営利組織はそれぞれに特有なミッションを追求するために、寄付者を参画者にすること。さらに、あらゆる人に絆としてのコミュニティと目的の共有を与える事が、課題となっているという。[Drucker(2007)]

このボランティア活動に加わった方々は何らかの面で辰巳洋先生と共にはたらき、その中で先生の依頼に役に立ったことを実感している。さらにありがとうと言われると、なんとなくニコッとして、うなずき納得している。私もそうであった。
辰巳洋先生の魅力は、計り知れないものがあり、多くの教え子らは、手弁当でいいから先生のために何かしたいと、手をあげ、無給のスタッフといわれる仕事に励む。

先生の学院は運営上民間企業の一部としてあり、そのトップマネジメントを努めておられる。逆に、先生はあくまでも細心に、丁寧な気配りをしている。費用の出入りについては、明確に分かる口座を別途用意して収支を明快にし、決算もアドバイザーの監査を受け、非営利ではないが非営利と同じ気持ちで、無給のスタッフらが納得して気持ちよくボランティア活動に励げむことができるようにはかっている。

4.「薬膳の今とこれから」、何が見えたか

第一の顧客である、学院長の要求にはどうやら少し近づくことが出来たようだ。学院長からは、曲がりなりにも第一の顧客としては「満足している」、との言葉を頂いた。
しかし、「神は細部に宿る」を標榜する私としては個々の内容を丁寧に見ると、記念誌一つとっても未だ未だ課題が残っている。

次の第二の顧客についてみる。
先日も、本草薬膳学院の研究科で学ぶ仲閧ノ言われた。

「この記念誌、重いのが難点だよ。」
「どうして?」
「中身が意外に濃く、読みたい。だからカバンに入れて持って歩いているの。重い」
「何を読みたいの?」
「まずは、辰巳先生の創立10周年 特別インタビュー第1部、第2部」。

想像以上に先生のインタビューに対する関心がたかく、硬派の内容を受け入れて頂けたのだと、うれしく聞いた。

中医薬膳学はというと、黄帝内経では既に2000年以上前から、中医の目的は国民の健康と長寿をターゲットにしていることを明確にしており、食の重要さはっきりと述べている。
10周年記念講座では「いかに弁証論治・施膳するか」のテーマをとりあげて頂いた。
なんと48名の受講希望者が集まり、教室が満員になった。
一人一人にあった弁証論治・弁証施膳の重要性をのべ、季節の薬膳の次には体質に合わせた薬膳、さらにカスタマイズされた弁証施膳、これらは、記念誌の基調論文において松岡氏も述べる統合医療の一端を自ら担うことのできる領域だとあらためて感じた。
人々の関心が高くなっている。

さらに、同じく記念講座にて折り込んだ「薬膳に関わる諸規則・法律に対する遵法講座」も48名の応募があった。当日の講演では空き席のない本当の満員であった。
日本の薬事法、食品のパッケージ表示あるいは広告該当性、場合によっては医師法など複雑で、この分野で「学び」、「起業」をしておられる人々にとってなんとも鬱陶しいものとなっていたようだ。もっと理解して、問題を起こさずに役に立ちたいという強いあらわれであった。
このほか、「分かりやすい教本」が欲しいと言う声も強かったが、今回は時間的な関係で取り上げるのを見送り、結果として第3の顧客の期待に応えることはできなかった。

これらの結果をみると中医薬膳学には多くの活気あふれた才媛が、希望をみなぎらせながら、多少難しくとも自らが欲しいと思う知識や知恵やノウハウを求めて集まっている。
中医薬膳学に携わる人々が、真摯に求め、行動すれば、本草薬膳学院の照らす明かりがもっともっと広がり、長寿と健康への安心感を多くの人々に提供できるようになると思われる。
そのときこそ第3番目の顧客へ自信をもって寄与できると信じている。

5.まとめ

組織はその活動に成果をもとめられている。今回の本草薬膳学院創立十周年記念行事実行委員会はボランティアが主体となった組織であり、「顧客」に満足をもたらすことがその組織の成果であるとして活動を総括した。
まず本組織の「顧客」の定義づけから活動を開始し、顧客の現状を知り、要望を把握し、顧客が価値あるものとするものを分析・企画・実行した。顧客とは第一に本草薬膳学院、第二に本草薬膳学院で中医薬膳を何らかの形で学んだ人々である。テーマを「薬膳、今とこれから」においた。もとめる中医薬膳実現のあるべき姿を「弁証論治・施膳」におき、記念誌では特別インタビュー企画を、薬膳を志すものに対する交流支援としては各地で活躍する薬膳教室リーダーらの発表と対話による交流を、更に国際交流としては、日中薬膳シンポジュームを日本国際薬膳師会と共催することにより実現し、日本国内はもとより中国からの来賓者をまじえ、本草薬膳学院の10年の足跡と次の10年への姿を示した。
記念式典には参加者数303名、本草薬膳学院10周年記念講座には2件には各確定申込数46名を得、前者についてはほぼ企画した参加者を、後者については予想以上の参加者を得た。定義した両顧客に対する反応は期待に対し手応えのあるものであった。
また、組織活動の基盤となるボランティア活動に対する分析を通じ、参加者と企画主体の本草薬膳学院の有るべき姿にふれた。
今回の記念行事の推進を通じ、今後の中医薬膳にたいし、本草薬膳学院とそこに学んできた人々によりこの先さらに一歩一歩すすめられる予感を感じさせるものとなった。
次の課題は、本草薬膳学院が指示し、求める中医薬膳を通じ、国民の健康・長寿に更に深く、効果的に貢献してゆくことであり、その期待が大きい。
次の10年に待ちたい。

謝辞
今回の本草薬膳学院創立10周年行事実行委員会での活動は、これまで辰巳洋先生が築いてこられた信用と人間関係と先生の高い学識と知恵によって、進んだと言っても過言ではない。さらには、ここに集まった多くのボランティアの人々の献身的で、優れた知識と知恵と行動力無くしてはできあがらなかったと言っても良い。あらためて皆様に謝意を表する。

参考文献:
P.F.Drucker(2007)『非営利組織の経営』第3章p181〜189、ダイヤモンド社

<< 前のページに戻る        TOPページへ >>      

10111213141516171819202122232425

目次で探す