第二部 日中薬膳シンポジウム(11:00〜13:00)

本草薬膳学院創立10周年記念大会並びに日中薬膳シンポジウム

2012年6月24日(日)

記念大会主催:本草薬膳学院創立10周年記念行事実行委員会

日中薬膳シンポジウム主催:本草薬膳学院・日本国際薬膳師会・中国薬膳研究会・北京中医薬大学・河南中医学院


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基調講演その3
体質を弁証し、食材を選び、養生を論じる
河南中医学院 韋大文 教授

新しい時代における養生の概念
◆人の生理の変化と個人の差異に順応して調節し、保養して養生する。
◆自然界の季節の気候変化と生態環境の変化に順応して、適切な養生を行う。
中国に現存する最も古い医学書である『黄帝内経』は人体の生命構造・生命過程を述べるだけではなく、生命を科学的に操作することができると示されている。人体を例にして、『黄帝内経』では、生命を養育する道理、人体の陰陽平衡の道理、“味”の転化の過程を探ることができる。人と自然、人と社会、人と人自身が調和のとれた関係を探り、自然に戻り、自然な“味”に回帰することは、まさに老子の言葉「味無味」“本来の味は味がない”、「大道至簡」“大きな道理は簡単なこと”の思想の具体的な体現である。
『黄帝内経』上古天真論に:「志閑而少欲、心安而不倶、形労而不倦、気従以順、各従其欲、皆得所願」。“欲は少なく、心を落ち着けて怖がらず、倦まずに働き、息は穏やかにすれば、心はいつも満ち足りている”とある。

1.健康の理念
WHO定義:健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいう。(日本WHO協会訳)による
◆健康は体と心の調和と統一によって成る。
◆健康は“一”で、ほかは“0”である。健康の“一”があって、その他をプラスしてはじめて、十、百、千、万になれる。しかし健康が失われるとすべて“0”になる。
◆治療より予防のほうが勝る。(被動と主動)
◆現代化した飲食により、文明的な病気を招くことはすでに否定できない事実である。文明の病気になる苦痛を遠ざけるために、自然に回帰しなければならない。穀類、野菜、果物、肉・魚という“四天王”を主とする飲食観念は人々の新しい指標になる。(五穀は補養し、五菜は補充し、五果は補助し、五獣は補益する、四気と五味を調和する)。
◆健康を回復する力は、意外にも最も自然で最も平凡な食べ物から得られる。

2.体質を弁別する意味
人体は各自、異なる体質を持っている。食物あるいは中薬により体を保養し、体質を強める効果を得るために、まず、自分の体質を理解しなければならない。

3.弁体施膳の養生原則
3-1体質形成の関連素因
◆先天素因
◆後天素因
◆環境素因

3-1-1 先天素因
・人種
・家族の遺伝
・結婚・出産
婚姻の問題は夫妻の問題であり、本質は陰陽の問題である。孔子『易・系辞』に「一陰一陽之謂道」「夫子之道、発端乎夫婦」“夫子の道、夫妻から発端となる”。夫婦の問題はうまく処理すれば、陰陽の道理が順調となり、家が平和になるとすべてが繁栄する。

3-1-2 後天素因

・飲食構造の影響: 飲食は体質と密接な関係を持つ。科学的に食事を検討し、体質を調整する。
科学的な飲食の理念を立て、科学的な観点からバランスをとり、肉と野菜を組み合わせる。
人に応じ、地域に応じ、季節に応じる。
食卓の新たな健康法則: 病が口から入ることを防ぐ。
栄養の組み合わせは合理的にする。
脂肪を取り除く。
骨格を丈夫にする。
“自分の歯で自分の墓を掘ることを避ける”。
・生活起居の影響- 太陽の昇降に従う。
起居のリズムを正す。
労働と休息は適度にとる。
生活の規則性を重んじる。

・季節に従う養生
  春3か月の養生の不注意により肝を傷つける。
  夏3か月の養生の不注意により心を傷つける。
  秋3か月の養生の不注意により肺を傷つける。
  冬3か月の養生の不注意により腎を傷つける。

・時刻に従う養生
子の刻-胆経の時刻 丑の刻-肝経の時刻
寅の刻-肺経の時刻 卯の刻-大腸経の時刻
辰の刻-胃経の時刻 巳の刻-脾経の時刻
午の刻-心経の時刻 未の刻-小腸経の時刻
申の刻-膀胱経の時刻 酉の刻-腎経の時刻
戌の刻-心包経の時刻 亥の刻-三焦経の時刻

『霊枢・本神』には「智者養生之道、必順四時而適寒暑、和喜怒而安居処、節陰陽而調剛柔、僻邪不至、長生久視」“智恵者の養生の道は、必ず季節に順じ、天候の寒暑変化に沿って、喜びと怒りを調和し、居所を安定させ、陰陽を調節して不調を改善し、邪気を避け、長生を維持する。”とある。
・自然環境の影響
人類が生存と繁殖、発展する環境は自然環境と社会環境に依存している。自然環境、社会環境に関わらず、体質の形成、発展、変化に対して重要な影響を持っている。

3-1-3 環境素因

外的環境: 自然環境の風寒暑湿燥火と社会環境である家庭、学校、職場などを指す。近代的な科学
は外的環境の改造に力を尽くしている。
内的環境: 臓腑、気血、経絡、精神・情志(心理環境)などの人体内の環境を指す。
古人の名言には“治境不如治心”という言葉があり、内的環境を注視することを提唱している。

・精神・情志の影響
  人類に最も残酷な影響を与える敵は自分自身の体内に存在している自分の欲望である。
  喜:顔が思わずほころぶ;うれしさが顔に現れる;胸のうちで喜ぶ。
  怒:激怒する。
  悲:肺を傷める。
  恐:気が下がる。
  驚:気が乱れる。
  驚と恐

・情緒を調節する名言
  あなたを傷つける人に感謝しましょう、それはあなたの志を鍛えるためだから
  あなたをだます人に感謝しましょう、それはあなたの経験と知識を増やすためだから
  あなたを鞭打つ人に感謝しましょう、それはあなたの業障を取り除くためだから
  あなたを捨てる人に感謝しましょう、それはあなたに自立を促す教育をするためだから
  あなたにつまずいてころぶ人に感謝しましょう、それはあなたの能力を強化するためだから
  あなたを厳しく責める人に感謝しましょう、それはあなたの知恵を助長するためだから
  あなたの成功を不動にするすべての人に感謝しましょう。

4.四季における平和体質の養生
4-1 形成原因-先天的によい遺伝子を受け継いでおり、後天的には育ち方・養生が適当である。
4-2 体の特徴-体型は適正、顔色は赤く潤い、精神と体力が満ち足り、臓腑機能の状態がよく、体格は丈夫で力強い。
4-3 現れる症状-顔色・皮膚の色は良好で潤い、毛髪は多く 、目はいきいきとし、精神と体力が満ち足り、思考は早く、反応が鋭敏で、睡眠はよく、食欲があり、大便・小便は順調、舌体は赤く潤い、脈は緩和で有力。
4-4 心理的特徴-性格は明るく、安定しており、快活で人付き合いがよい。
4-5 適応能力-自然環境・社会環境に適応する能力が強い、病気になることが少ない。
4-6 平和体質の飲食における調節ならびに補益する原則
4-6-1 五味調和-平補陰陽
気味を調和し、多種類の食物により陰陽を調節し養う。偏食しないこと。
4-6-2 順時調養-和于陰陽・調于四時 季節と陰陽に合わせて養生する。
            “春夏養陽、秋冬養陰”という養生の原則に従う。

春季:養生として(陽気を)上昇させ、温性の食物を選択して用いる。辛熱・刺激性が強いもの・発散しすぎる食持を禁忌する。春は肝臓に通じる酸味を減らして甘みを増加し、脾を保護して、肝木と脾土の関係から相克と相乗を防ぐ。野菜を多く食べる。例えばほうれん草、ニラ、セロリ、タケノコ、ナズナ、アスパラガス、 蒲公英、茵陳、灰菜、すみれ、苦苣菜、クコの芽などの軽・霊・宣発、清・温・平・淡の食材をすすめる。

夏季:養生として清・淡、芳香の飲食をすすめる。冷やしすぎるとよくない。初夏には心に通じる苦味を減らして辛を増加し、心を保護して、心火と肺金の関係から相克を予防する。清熱解暑・清淡芳香・淡滲利湿健脾の食材を選択する。例えば、茯苓、山芋、蓮の実、ハトムギ、インゲン豆、冬瓜、ヘチマ、薄荷、石香菜、紫蘇、カワミドリの葉などの食材をすすめる。

長夏:養生には芳香、淡滲利湿の食材をすすめる。長夏は脾に通じる甘味を減らし鹹味を増加し、脾を養い、脾土と腎水の関係から相克を防ぐ。食材は夏季と同じように対応する。

秋季:養生には甘・寒、潤いがある食材をすすめる。初秋には清補、中・晩秋には平補を用いるという違いがある。秋季の乾燥している気は肺に通じる辛を減らして酸を増加することにより肺陰を養い、肺金と肝木の関係から相克することを防ぐ。陰津を潤す食材、例えばナシ、百合、蓮根、大根、銀耳、人参などをすすめる。

冬季:冬は精を貯蔵する季節である。秋冬には陰を養う。滋陰潜陽の食材をすすめる。冬は腎に通じる鹹味を減らし苦味を増加し、腎気を保養し、腎水と心火の関係から相克することを防ぐ。飲食は魚介類、肉類 、鶏類、カメ、スッポンなどを採る。

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